けものへんに むし

本と食べ物と育児の話

乾燥肌とスマホの布団

f:id:kemo064:20150509222835j:plain

「赤ちゃんの肌は乾燥しやすいですからね」皮膚科でそう言われて驚いた。
 化粧品のコピーや美容雑誌には「まるで赤ちゃんのような肌」というフレーズが登場する。生まれたばかりの赤ちゃんはぷるぷるした瑞々しい肌をしている。その美しさは若さからくるもので、そこにあって当然のものだと信じていた。

 娘が背中を引っかきだしたのは数日前。これまでも顔をひっかいて傷を作ることがあったので、またかと思い、爪を短めに切った。以前使った引っ掻き防止用のミトンをはめてみたが1歳半には通用せず、すぐに投げ捨てられた。
 傷はひどくなり、これはいけないと思い皮膚科を受診した。
 そこで初めて赤ん坊の肌が乾燥しやすいことを知った。これまで何もなかったのは幸運だったのだ。
「保湿ローションを出しますので塗ってください。あと、患部をひっかかないように手にオモチャを握らせるようにしてください」
 医師の指示に「ハイ」と答えたものの、心の中で(そうか、スキンケアは必要なんだな)と驚いている自分がいた。

 うなじから背中にかけて痛々しい引っかき傷ができている。半日もすると傷が乾くのだが、かさぶたが痒いらしく、寝ている間にも引っかく。朝は娘の爪にこびりついた血をぬぐうところからはじまる。

 どうしようか思案し、寝ている間はハイネックのシャツを着せることにした。秋物だが、これ1枚なら暑くないようで機嫌よく着てくれる。首回りが覆われているので、容易に背中に爪を立てられないのだ。服の上から掻きむしりキーキー言っているが、直に掻くよりましだろう。

 眠る前に特に痒くなるらしいので、気を逸らすために電源を落としたスマホを握らせた。娘は、私や夫が持つ黒い板が気になるらしく、常に狙っている。
 普段は触らせない道具を持つことができてご機嫌だ。スマホを握りしめ部屋中走り回る。しかも画面をスワイプさせながら。指でこすれば反応があることを知っているのだ。

 1歳半の娘はまだ話すことはできない。しかし、いくつかの単語は理解しているようなので、バスタオルとハンドタオルで布団のようなものを作りスマホを寝かせ、「ねんね」と言ってみた。
 目論見通り娘は横になった。「ねねー、ねねぇー」と言葉のようなものを発する。たぶん意味は通じているのだろう。
 このまま眠ってくれればいいのだがと様子を見ていたら、数十秒後にはすっと立ち上がり、スマホを手に走りだした。
 戦いはまだ続いている。