たまごサンド
サンドイッチと聞いて思い出すのが吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』である。路面電車が走る町に引っ越してきた青年の日常を淡々と描いた作品で、何もおこらないのに何かが起こっている不思議な物語だ。
トロワという名のサンドイッチ屋が登場し、店主が「おいしいサンドイッチを作るコツ」について話すシーンがある。
「しいて言うと、細い指先をもった人は、コツなんて知らなくても、きっとおいしくつくれます」
そう言って、僕の指先のあたりをそれとなく見ていた。
「指先?」
「どんなに良い材料を使っても、パンに指のあとを残したら駄目です」
吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』P22
わかるような、わからないような話である。
次に思いだすのが幸田文『台所帖』のあとがき。幸田文さんの孫、青木玉さんの文章である。
祖母が刻んでくれたきゅうりは口の中でいつもとは違っていた。切口がすぱっと、角が立っている。幼いなりに、舌にあたる感覚や歯ざわりも味覚の一部と知って嬉しかった。
幸田文『台所帖』P250
こちらはわかりやすい。切口がスパッとした食材は舌に乗せるとすべやかで気持ちいい。
このふたつの文章が、サンドイッチで結ばれたのはつい最近のことである。たまたま入ったパン屋のサンドイッチが美味しく、思わず「トロワだ」と呟いた。
ふっくらしたパンは、ほどよい力をかけられたのだろう。具がたっぷり入っているのに、つまんでも、中身がぼろぼろこぼれる気配はない。もちろんパンに指のあとはついていない。しわひとつない布を連想させる端正なパンだ。
食欲がなくて白飯が食べられなくても、おにぎりにすれば食べられるように、簡単にできるものは、食材の味よりも、食感が美味しさ、食べやすさを左右するのだ。
ふと、何年も包丁を研いでいないことを思い出した。研ぎ屋を探し、研いでもらった。切れない包丁は使うのが怖くなるほどよく切れるようになり返ってきた。
この包丁でキュウリを刻み、たまごサンドを作った。
材料は、美味しい食パン(8枚切り)2枚、卵1個、キュウリ1/2、マヨネーズ適量、バター5g、からし少々。
- バターを室温に戻しておく。
- ゆで卵をゆで、あらみじんに刻み、マヨネーズを混ぜる。
- キュウリを斜め千切りにする。
- バターをよく練りクリーム状にし、からしを混ぜる。
- パンにバターを薄く塗り、2の卵、3のキュウリを挟む。パンを半分に切る。