けものへんに むし

本と食べ物と育児の話

たぶん、もう手に入らない。

 

あの日あの日(e_haya)www.flickr.com

 就学前の私の遊び相手は、隣家の二つ年上のお姉さんだった。
 当時の私が4歳。彼女は6歳。今思えば、まだお尻に卵の殻がくっついてそうな小さなお姉さんだった。
 近所に同世代の女の子がいなかったため、私たちは毎日のように遊んだ。開発途中の田舎町は、山が切り開かれては均されて、毎日空き地の世界が広がっていった。新しくできた道は、どれも黒々としたアスファルトで覆われていた。昔からある古い町に住んでいた私は、その黒さが珍しく、小さなお姉さんと造成地近くまで遊びに行った。古い町の道は舗装されていなかった。
 小さなお姉さんは、私が欲しい物をたくさん持っていた。
 自分の部屋、リリアン魔法少女の変身ステッキ。
 自分の部屋は家のスペースを考えると持てないことは幼心にわかっていた。
 リリアン魔法少女の変身ステッキは、親にねだってみたところ「クリスマスにね」「誕生日にね」と、そのたびはぐらかされた。いつかは買ってもらえるかもしれないと期待をしていたが、熱が冷めると忘れてしまった。
 しかし、小さなお姉さんの宝箱にはお店で買えない物がいくつかあった。
「振ると色が変わる薬」と、「あぶらの石」である。
 薬は、シロップ薬を処方される時に使われるプラスチック容器に入っていた。目盛りがついた、なで肩の容器だった。お姉さんが宝箱から取り出した時は透明なのに、振ると白くなる。しばらくするとまた透明に戻る。
「これは何?」と私が聞くと、彼女は「クスリだよ」と答えた。このやりとりは昨日のことのように覚えているから何度も繰り返されたのだろう。あまりにも鮮明なので、後から想像により作られたものかもしれない。ただ、「振ると色が変わる薬」が欲しいという思いは強く残った。
「あぶらの石」は、真っ黒な石だった。かざすと、一部分が、シャボン玉の表面に現れる七色の光を見せた。これを見せてもらったのは一度きりだった。

 小さなお姉さんが小学校に入学すると、毎日一緒にいたのが嘘のように会わなくなった。2年後に私も後を追い同じ小学校に入学したが、集団登校以外、彼女と接することはなかった。
 一度、何かを思い立ち、お姉さんの家に遊びに行った。小さなお姉さんとその友達がいて、めんどくさいという顔をされた。遊んでもらったが、年下の私は邪魔者で、ちょっとした意地悪をされて泣きながら帰ったのを覚えている。
 母に「しょうがないのよ。お姉さんにはお姉さんの世界があるんだから」と言われ、彼女と遊んだ時間と、不思議な宝物が失われたことを知った。
 後に、「振ると色が変わる薬」と「あぶらの石」の正体を知ることとなったが、懐かしさから手にしたとしても、本当に欲しいものは、たぶん、もう手に入らない。

今週のお題特別編「子供の頃に欲しかったもの」
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