読書週間2016 おすすめ本まとめ
ツイッターの「#読書週間だからRTといいねの数だけ好きな本を紹介しよう」タグまとめ。小説3冊、随筆1冊、絵本1冊を紹介します。
ノーライフキング/いとうせいこう/河出文庫
個人電話が普及し子供が独自のネットワークを築けるようになった世界。人気RPG「ライフキング」にはクリアできないと死ぬバージョン「ノーライフキング」があると噂されていた。
まことが通う小学校の校長がゲームの敵と同じ台詞を吐いた後に急死する。ノーライフキング呪いは噂となり日本を駆け巡る。子供達は現実世界の攻略方法を探しはじめるが……。
あらすじだけ読むとゲームにまつわる都市伝説小説のようだが「人のネットワークが生み出す力(魔王、あるいはノーライフキング)が人を動かし殺す」「拡散された情報は制御できない」というSNSが抱える問題をインターネットが影も形もなかった1986年に描いている。ネットワークが生み出す力とは、噂をする人々の「誰かの役にたちたい。人の関心を引きたい」という願望である。(ツイッターはこの感情に満ちている)子供達は願望成就のためより過激な死の噂をたてるが自分達のがそんな願望を持つことを理解できないため一番噂を恐れる。
噂は子供の中で事実となり、子供達は呪いで死んだ後に自分自身を残すため、記録媒体に自分を構成するものを綴りだす。遺書だ。子供達がどうなるかはネタバレになるので伏せるが、ノーライフキングは生き残る。それは現在ツイッターをしている私たちが一番よく知っている。
この作品は雪だと思う。淡々とした文章がはじまったと思ったら、いつの間にかノーライフキングの噂が積もり、読者を作品の世界に埋めてしまう。
タイム・リープ あしたはきのう/高畑京一郎/電撃文庫
時間移動もの。高校生の翔香は朝起きて「昨日の記憶」がないことに気づく。日記を見ると同じクラスの若松に相談しろと自分の筆跡で書かれていた。翔香は意識内時間移動現象、意識のみ時間移動する現象に巻きこまれていた。
タイムパラドックス問題に真っ正面から立ち向かった時間移動SF。時間のパズルものの傑作です。若松というサポーターがいるが時間の流れを取り戻すために戦うのは翔香というところもいい。知性でサポートしてくれる男子萌え。
竜が最後に帰る場所/恒川光太郎/講談社文庫
現実の裏側にある世界をのぞいているような短編集。恒川作品全てに共通するのは「懐かしい景色」。日本の様々な地方の風景を行間から覗いているような感じがする文章です。ストーリーは先が読めないものばかりなので、穿ったりせず素直に読み進めていくことをすすめます。
本書の「鸚鵡幻想曲」を読んでよかったと感じたら、他の短編集も読んでみてください。はまりますよ。
ことばの食卓/武田百合子/ちくま文庫
物事を見たまま切り取った何ひとつ無駄のない神がかった随筆。
戦時中に手に入れた牛乳を友人と分けた時の「牛乳」という話は、生物の血からできた牛乳と脱脂綿(生理用品として使っていた)を交換するさまが生と死だと気付いた時に目眩を感じた。
まるまるまるのほん/エルヴェ・テュレ/ポプラ社
インタラクティブ絵本と私は呼んでいます。鮮やかな色の丸が描かれており丸をクリックしたり本をかたむけてみようと呼びかけてくる。次頁には前頁でした行為のリアクションが描かれる。
タブレットだけじゃなく本で会話しながら遊ぼうよという声が聞こえてきそうな絵本。丸の色の鮮やかさとのびやかな形が好きでパラパラめくるだけでも楽しい。(うちの子供が一歳半くらいから遊びながら読み聞かせていたら二歳をすぎたあたりから一人で遊びだしました)
ひきうけた言葉
先週のお題が「一番古い記憶」だったので思い出したこと。
おそらく4、5歳の頃のことだと思う。
休日の朝、母が慌ただしく出かける支度をしていた。ついていこうとした私を玄関先で振り払い、「絶対に外に出ちゃだめ」ときつく言い、ドアの向こうに消えた。
居間では父が弟とテレビを見ていた。
しばらく玄関にいたと思う。
父に「一緒にテレビを見よう」と呼ばれたような記憶もある。
気がつけば私は靴を履き、外に出ていた。
向かいの家の前に人が集まっていた。知っている人も知らない人も大勢いたが、ほとんどが大人だった。
向かいの家は母の友人の家だった。家族ぐるみでつきあいがあったため、家のことはよく知っていた。少し前に赤ちゃんが生まれたことも当時の私は知っていた。
大人たちが大きな箱を運んできた。後にそれが棺だと知るが、当時の私はそれが何だか知らず、大きな箱が車に乗せられてゆくのを見ていた。
近所のお姉さんが私を見つけ、呼んだ。彼女は前にも書いた素敵な宝物を持つ小さなお姉さんで、私よりも四つ年上。当時は小学2年か3年だったと思う。彼女が手にしていた数珠を今でもはっきりと覚えている。記憶の中の小さなお姉さんは、私の知らない不思議なものや素敵なものを持っている人だった。
しばらくして、向かいの家の赤ちゃんが亡くなったことを聞いた。
乳幼児突然死症候群という言葉を知ったのは大人になってからだった。
向かいの家とうちのとつきあいは続いた。
理由は覚えていないが、向かいの家の奥さんと話す機会があった。
「赤ちゃんは、夜中に急に静かになって冷たくなっていったの」
もしかしたら会話ではなく、奥さんの独り言だったのかもしれないが、私はその言葉をはっきりと聞いた。
その言葉の意味はわからなかった。
成長するにしたがい、言葉の意味を理解したが、誰にも話さずにいた。
大人になってからは出産するまで子供と接することがなかったので、身近なものとして考えられずにいた。ただ、その言葉は私の心に居続けた。
出産し、生まれた子供のか弱さに、言葉の重さを感じた。
幸いなことに娘は健康ですくすくと成長している。
奥さんは、その後に二人子供を産んだ。風のうわさで孫が生まれたと聞く。
あの時の言葉など覚えていないだろうが、彼女が放った言葉はまだ私の心の中にいる。恐怖や戒めとしてではなく、置物のようにそこにいる。
おそらく私はこの言葉を引き受けたのだと思う。
投げ捨てて忘れてしまうことはできないが、抱えておくと重すぎる。そんな肩の荷を、荷の重さが理解できないから受けとめられたのだと思う。
おそらくこれが一番古い記憶の話。
夜の読書
クーラーがきいた部屋で横になり本を読むのは幸せだが、夜中に窓を開け、虫の音を聞きながらの読書もいい。
やるのなら、八月も半ばを過ぎ、猛暑が落ち着いた頃がいい。
時間は22時以降。できれば日付が変わる頃が望ましい。
窓を開け、網戸越しに夜気を感じる。部屋の電気を消してスタンドの明りをつける。窓の外は道を挟んで空き地で、すずやかな虫の音が聞こえてくる。
あとはゆっくり本を読むだけだ。
はじめる前に、飲み物を用意しておくのを忘れずに。
読むのなら、一夜で読み切れる短編小説がおすすめ。
私がおすすめするのは、恒川光太郎の初期作品。
「南の子供が夜行くところ」
日本から離れた南国の島を舞台にした連作短編集。
読み直すたびに、リンクしあう部分を探し、幻想的な世界を旅している気分になれます。「もう少しこの不思議な世界に浸っていたい」と感じるのも特徴。
物語のあらすじを語ってしまうと、作品が持つ神秘的な部分が失われてしまうので詳しくは書きませんが、夏の夜に読むのにふさわしい物語です。
「遠野物語remix」
遠野物語を現代語にし、再構成した一冊。
原文はかなり読みづらいが、この本は小説を読むのと同じように、すっと遠野物語の世界に入ることができる。
山という異界、座敷わらしや山に住む者といった妖怪の伝承をまとめたものなので、話にオチはなく、その先がどうなったの? と聞きたくなる話が多い。オチがないために、背筋に冷たいものが走るような怖さを感じる話もある。
自分が住む世界とは違う理を感じられるので、異界に浸りたい人におすすめ。ただし得体のしれない怖さがあるので怖がりな人にはおすすめできません。
今週のお題「読書の夏」