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けものへんに むし

本と食べ物と育児の話

孫悟空ではないけれど

 ドラゴンボールを読んでいた夫が真顔で「悟空のようになるのが目標だった」と言った。
 宇宙最強の男になりたかったのかと尋ねたところ「違う」と即答された。
 悟空が能力を活かし、どこででも生きていく姿を見て、自分もそうなりたいと思ったのだという。夫は組織にいるよりも、自分の采配で仕事をすすめたいタイプなので納得した。

 子供の頃から冒険物語が好きだった。ナイフやロープ、その他道具を巧みに使いピンチを切り抜ける主人公。道具を使いこなせる人は凄いなぁ、強いなぁと漫画や小説の主人公を尊敬した。
 家の中は、冒険物語に登場する道具よりはるかに便利なものであふれている。だが、大抵の道具はブラックボックスで、しくみを理解せずに使っている。スイッチを入れれば望みの作業が行われる。考えずとも結果が得られる。
 チンパンジーの賢さをはかるため、自動販売機の使い方を教え、実行させる。好きな飲み物を手に入れるためにボタンを押すチンパンジーと自分の姿が重なる。
 道具を使いこなしているように見えて、便利な道具に生かされているだけなのだなと思う。子供の頃読んだ冒険物語の主人公達は、自分の体の延長上として道具を使っていた。仕組みを理解したうえで使いこなせるものが、本当の意味で、自分が使える道具なのだろう。

 この世で一番強いのは、体ひとつで生きていける人だと思う。

 前置きが長くなったが、文字通り「体ひとつで生きていける人」の話を読んだ。孫悟空ではない。茨城県福島県の県境にそびえる八溝山に住む義っしゃんである。

『猟師の肉は腐らない』は、実話を元にした小説。

「俺」(小泉武夫さん)と義っしゃんが八溝山を歩き回り、山の恵みを食べるだけの話である。エンターテイメント的な事件はおこらないが、読み始めるとぐいぐい引き込まれる。
 義っしゃんは、粗野な感じのするおじさんだが、猟をする姿は知的だ。慣れた山でも油断をすれば命を失うため、五感を研ぎ澄ませ、頭をフル回転させ最良の道をゆく。その姿は惚れぼれするほどかっこいい。
 たぶん、昔はこういう人がたくさんいたのだろう。
 こういう人でなければ生き残れなかったのかもしれない。

 

 

猟師の肉は腐らない

猟師の肉は腐らない