水色ののっぺりとした空の下
スーパーを出て住宅街に入ると音がなくなる。
午前10時すぎの街は無人だ。
夫が出勤すると、娘は自分も外に出たいとぐずりだす。「私にはやらなければいけない家事があるんだよ」と諭しても、まだ言葉を話すことがままならない娘に伝わるはずもなく、泣き声を聞きながら洗濯を干し、朝食の片付けをする。
ベビーカーに乗せると大喜び。歩きだすと、振動が心地よいのか眠ってしまう。
金切り声を聞かずに済むことと、目的地へ着くまで何も考えずに足を動かせばいいだけなので、買い物は頭の休憩時間だ。
買い物を済ませ、帰路につく。大通りを離れ住宅街に入ると音がなくなる。
店内に流れていたBGMも、喧騒もない。通行人はいない。嘘のような静けさ。明るい日差しの下、並ぶ家がどれも無人に見えてくる。
水色ののっぺりとした空の下、私はベビーカーを押す。ハンドルにひっかけられたスーパーの袋がゆらゆらと揺れる。中には肉や卵や野菜が入っている。陽気な気候のもと、食材に棲む菌達は、じわじわと繁殖を続けているにちがいない。
もしも、食材が傷まないのなら何時間でも歩いていたい。
ベビーカーに揺られている間、あれだけ泣いていた娘が眠りにおちる。掌の延長上にあるベビーカーで眠っているので、安心していられる。娘の心配をせずにいられる時、私は私に戻る。
歩きながら、読んだ本や好きなものについて考えを巡らせる。ブログに書いているような昔のことを思い出したり、家事の段取りを考える。
20分ほどの旅路を終え家に着くと、娘が目を覚ます。母親の面をかぶって段取り通りに動く。